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福岡地方裁判所 平成元年(レ)57号 判決 1989年9月26日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金二五万七二一〇円及びこれに対する昭和六三年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (本件事故の発生)

(1) 日時 昭和六三年一〇月一〇日午後八時二〇分ころ

(2) 場所 福岡市東区香椎浜四丁目一〇番一号(ふくみつ病院駐車場内)

(3) 加害車両(被控訴人運転車両)

普通乗用自動車(福岡五九み七四九七)(以下、「被控訴人運転車」という。)

(4) 被害車両(控訴人所有車両)

軽乗用自動車(福岡五〇え四〇九五)(以下、「控訴人所有車」という。)

(5) 態様 右ふくみつ病院駐車場内で駐車中の控訴人所有車の後部に、被控訴人が被控訴人運転車の前部を衝突させ、これにより、控訴人所有車前部が前方の駐車場フエンスに衝突したもの

2  (被控訴人の過失)

本件事故は、被控訴人が、自動車を運転するのであるから、前方を注視し、適切にハンドル、ブレーキ等の操作をして安全に自動車を運行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然被控訴人運転車を控訴人所有車に衝突させた過失により生じたものである。

3  (損害の発生)

本件事故によつて、控訴人は次の損害を被つた。

(1) 控訴人所有車修理費用 金二三万五六一〇円

(2) バス通院代 金二万一六〇〇円

控訴人は、慢性腎不全の治療としての血液透析のため毎週三回前記ふくみつ病院に通院していたが、本件事故のために控訴人所有車を使用できず、バスにより通院せざるを得なかつた。バス代は一日(往復)金一〇八〇円であるから、本件事故発生の日から昭和六三年一一月二五日までの四六日間のうち通院した二〇日分にあたる金二万一六〇〇円が本件事故に基づく損害となる。

以上合計金二五万七二一〇円

4  よつて、控訴人は、被訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、金二五万七二一〇円及び右金員に対する不法行為の日の後である昭和六三年一二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  請求原因3の事実は否認する。

控訴人は、本件事故による控訴人所有車の修理費用が金二三万五六一〇円であると主張するが、控訴人所有車の本件事故当時の時価は金一〇万円相当であつて、修理費用の方が、著しく時価を上回ることとなるから、本件事故による控訴人所有車の損害の算定にあたつては右時価相当額によるべきである。

第三証拠

本件訴訟記録中原審の書証目録及び証人等目録並びに当審の書証目録に各記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故による控訴人の損害について

1  成立に争いのない甲第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証の一、二、原審証人津田正裕の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一ないし六、右証人の証言、原審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故により、控訴人所有車は主にその後部と前部とに損傷を生じ、この修理代見積額としては、金二三万五六一〇円であること、一方、控訴人所有車の本件事故当時の時価については、控訴人所有車は、昭和五〇年式ダイハツ・フエローマツクス、型式L38Vであるところ、昭和五〇年当時の新車価格はグレードによる差異はあるものの金四九万八〇〇〇円から金五五万六〇〇〇円であつたこと、しかし、控訴人は、控訴人所有車を、新車で購入したものではなく、友人から取得したものであるが、その取得価格については控訴人自身も明確に記憶しておらず、その取得価格については不明であること、控訴人所有車の昭和五三年の中古車市場における平均販売価格(但し、車検整備をした中古車の価格)はグレードによる差異はあるものの金二〇万円から金二七万円であり、昭和五四年の同平均販売価格は金一七万五〇〇〇円から金二二万円であり、昭和五五年の同平均販売価格は金一四万円から金一八万円であり、一年間経過すると約金三万円ないし金五万円前後価格が低下していること、それ以降の中古車市場における平均販売価格については、いわゆるレツドブツク(オートガイド自動車価格月報、乙第三号証の一ないし六)が、初年度から五年を経過した車については、掲載していないこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実からすれば、結局、控訴人所有車については、本件事故当時の時価は年数経過による価格の低下を考慮し、最高価に見積つても金一〇万円にすぎないと認めるのが相当である。

ところで、事故による破損車両の修理に要する費用が事故当時の時価を著しく上回る場合において、被害者が同程度の同車種の車に買い換えるのではなく、敢えて多額の出捐を要する修理を選択することについて社会通念上合理的と認めるに足るべき特段の事情のないかぎり、賠償を求め得る額は車両の事故当時の時価を限度とすると解するのが相当であるところ、本件全証拠によつても右特段の事情があるものとは認められないから、結局本件事故による控訴人所有車の損害は事故当時の時価をもつてその損害とみるべきである。

そうすると、本件事故による控訴人所有車の損害は金一〇万円とみるのが相当である。

2  成立に争いのない甲第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証、原審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は腎臓機能障害を有し、その治療としての血液透析のため週三回、ふくみつ病院に通院していたこと、右通院には控訴人所有車を使用していたこと、本件事故後は、バスを利用しており、その運賃は往復で金一〇八〇円であること、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

控訴人が、控訴人所有車に代わる同程度の同車種の車を購入するためには二週間程度の期間で足りると解するのが経験則上相当であるから、右期間に控訴人が支出を余儀なくされたバス運賃(週三回で二週間分)については、本件事故と相当因果関係にあるものと認められる。

したがつて、バス運賃については、金六四八〇円について被控訴人に損害賠償責任がある。

(算式)一〇八〇(円)×六(回)=金六四八〇円

3  以上から、被控訴人が控訴人に対して賠償責任を負うべき額は金一〇万六四八〇円となる。

4  以上の次第であるから、控訴人の請求のうち、損害賠償として金一〇万六四八〇円の支払を求める部分は理由があるが、これを超えた部分については理由がない。

よつて、控訴人の請求は、右理由がある限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべきところ、これと結論を同じくする原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寒竹剛 鳥羽耕一 島田睦史)

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